高橋さんちのKOEDO低燃費生活

「家は夏をもってむねとすべし」でいいのか?

約 6 分
「家は夏をもってむねとすべし」でいいのか?

2019年初のKOEDOブログです!今年も楽しくてためになる記事をめざしてやっていきたいと思います。よろしくお願いします!

お正月もそうでしたが、ぼくらが暮らす川越でも朝晩は0度前後になるなど、本格的に寒くなってきました。とはいえ、わが家では朝起きても家中19℃以下になることはないので、やっぱり断熱って大切だなと感じているところです。

このような話をしても、特に年配の方の中には「断熱なんてそこそこでいい。日本は湿気が多いのだから、通風を重視した夏に涼しい家造りを優先すべき」と言う人たちがいます。そして、その人たちが必ずのように口にするのが「家は夏をもってむねとすべし」という有名な古典、『徒然草』の一節です。

『徒然草』というと、古文の教科書で序文を音読させられた記憶がある方もいるかも知れません。そう、「つれづれなるままに日暮らし…」で始まるアレです。その中に、例の「家は夏をもってむねとすべし」(家造りは夏に合わせてつくったほうが良い)という言葉が出てきます。

でもその教えって、今でも当てはまるんでしょうか?今回は、そのあたりを考えてみます。

兼好法師ってナニモノ?

家の話からはそれるのですが、徒然草をまとめた兼好法師とは、どのような人だったのでしょうか?兼好は、いまからおよそ700年ほど前、鎌倉時代末期から南北朝時代にかけて生きたとされる人物です。若い頃はお役人でしたが、「法師」という名の通り、徒然草を書いたときはすでに出家して、隠居生活をしていました。徒然草は、その兼好が思いつくままに書きつづった随筆集です。ざっくりいえば、「中世のご隠居さんが書いたエッセイ集」ですね。

では肝心の、家について述べているのは部分を見てみます。

「家の作りやうは夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる。暑きころわろき住居は堪へがたきことなり。」(徒然草第五十五段)

現代語訳としては、「家の造りは、夏のことを第一に考えて造るべきだ。冬はどんなところでも住むことができる。しかし暑い季節に住みにくい家とは、どうにも我慢ができない。」となります。

断熱技術などなかった中世の家造りでは、この言葉通りに夏対策が重視され、家中隙間だらけで、カビを生やさないようにするのが一般的でした。また、現代はヒートショックなどで冬に亡くなる人が圧倒的に多いのですが、中世では夏の死亡者数が冬よりも多かったと考えられています。

理由としては衛生環境が悪く、暑さにより疫病が広がったり、食中毒も広がりやすかったからです。そのような意味で、家は夏対策を優先すべきという考え方は、当時としては理にかなっていたとも言えます。現在も古民家では、その考え方が受け継がれているのがわかります。

とは言え、古民家の冬の寒さは半端ではありません。

700年前も、冬には火鉢を囲んでただ耐えるしかありませんでした。「冬はいかなる所にも住まる」という言葉は、裏を返せば、当時はどんな住まいでも何をしても寒いので、他に選択肢がないということだったのではないでしょうか?少なくとも暖かい家を知ってしまった僕としては、兼好法師が推奨したような寒い住宅に住むのはちょっとご遠慮したいところです。

700年後の家はどうなの?

では、700年後の現代の既存住宅の夏と冬の状況はどうでしょうか?まず夏ですが、700年前より外気温が上がっているとは言え、家の中は蒸し暑く、常に風通しを良くしておかないとカビが生えやすく、室内で熱中症により搬送される人も増えています。兼好が力説したような夏の暑さや湿気対策という意味では、当時の家造りより退化している面があるかもしれません。

冬の寒さについては、もちろん当時よりはマシにはなっていますが、それでもヒートショックなどで多くの方が亡くなっているので、「今の家は暖かい」とは言えません。あくまで、700年前の家に比べたらという条件付きです。

しかもたいていは暖房器具に頼りきりで、停電が起きれば寒くてたまりません。つまり現代の既存住宅は、夏は暑く冬は寒い、一年を通してとても過ごしにくい家になってしまっています。

そんな状況は、当時の人から見ても残念でしかないはずです。「夏をもってむねとすべし」という言葉は、あくまで700年前の人の時代感覚です。それを、現代の居心地の良くない住宅をめぐる状況を変えない言い訳として、「昔の人は良いことを言った」と利用するのはいかがなものかと思います。

平均年齢24歳の時代

兼好法師が生きた時代は、戦乱が長く続き、災害や疫病なども相次ぎました。乳幼児死亡率は高く、もちろん現在のような後期高齢者はほとんどいません。平均年齢は、なんと24歳前後だったと言われています(※)。平均寿命が男女ともに80歳を越え、高齢者が人口の3割に達しようとしている今の日本とは、まるで状況が違います。

※聖マリアンナ医科大学・平田和明教授の研究より

それだけに徒然草には、明らかに現代には合わない記述も多々あります。例えば「夏をもってむねとすべし」の後にも、「天井の高きは、冬寒く、燈くらし」という文章が続きます。「高い天井は、冬が寒くなるし、ロウソクの火が暗くなってしまうのでよくない。」と言っているのですが、それを基にして現代にわざわざ天井の低い家を建てている人がどれほどいるでしょうか?

ロウソクの明かりで暮らしている時代と今とでは、家造りの技術や価値観、暮らし方が違ってくるのは当たり前です。ちなみに、わが家は天井が高く大きな吹き抜けもありますが、家のどこに言っても温度が変わらず、非常に快適に過ごせます。

何度も言うように、『徒然草』は中世のご隠居さんがつぶやいたエッセイ集です。あるいはツイッターみたいなつぶやきかもしれません。その中のあらゆる考え方、特に家造りのような実利的な話が、700年後の現在でもそのまま当てはまるわけはありません。

兼好法師自身だって、もし自分がつぶやいたその言葉が独り歩きして、冬を暖かくする技術があるのにそれを使わず、頑なに暖かい家を拒んでいる人々がいることを知ったら、ビックリするのではないでしょうか?

700年前になかった、家を夏に涼しく、かつ冬に暖かくする技術や選択肢はすでにあるのですから。これからの時代は、「家の造りは、夏も冬も大事にすべし」を常識にしていきたいですね。なお「断熱すると夏は暑くなる」という誤解については、過去のこちらの記事をご覧ください。

※ちなみに今回のお話は、エコハウスの普及を進める近畿大学の岩前篤先生に行ったインタビューをヒントにさせていただきました。

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